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株式会社フロンテア

今回の花人/伊豆・松崎の河浦輝雄さん(河浦花園)

いっさい化学肥料を使わない、いい土づくりの極意を聞きました

花栽培の八割は、土で決まるといわれます。
だれもが、いい土をつくりたいと思いながら、なかなかうまくいかないのが、土です。
そこで土づくりの名人が、伊豆におられると聞き、伊豆まで出かけてきました。
名人の名前は、河浦輝雄さん。六十歳。

この伊豆に移られて三十年あまり、
アスター、ラークスパー、トルコギキョウ、スカビオーサ、コスモスなどの切り花を家族四人で栽培されてきています。
河浦花園さんの場所は、西伊豆の松崎町。
伊豆急行の蓮台寺駅より堂ヶ島行急行バスで約四十分、
松崎の市街地に入る手前、「船田」のバス停そばです。
目の前は那賀川が流れ、花栽培にはうってつけの環境に見えます。
栽培面積は、約千四百坪で、すべてはハウス栽培です。
さっそく事務所で、「いい土づくり」の秘訣を聞きました。

「いい土は軽くて、いい薫りがする」

--河浦さんが考えるいい土の条件とは、何でしょうか。
よく団粒構造の土がいい土だといわれますよね。この土は、団子のような固い土でなくて、その逆でとても柔らかい。それは土に微生物をたくさん含んでいるためで、その微生物が土をうまく溶解し、土をフワフワにする。だから、土はたくさんの酸素をもち、その一方で水はけがよく、水もちもよい。したがって根が育ちやすいわけです。そういう土は、三分の一は土、残り三分の一ずつは酸素と水という状態になっています。だから、手にとって見るとわかりますが、いい土はとても軽い。

--初心者でも、いい土かどうかの見分けはつくのでしょうか。
それは土を一握りとって、嗅ぐだけでわかります。いい土は、かならずいい薫りがします。山に入って落葉樹のしたの土を嗅いでごらんなさい。とてもいい薫りがするはずです。そういう自然のままの土がいい土なんだと考え、それをひとつの目安にするといいですね。

--土については、昔から黒土がいいともいわれるようですが。
そういうことは関係ありません。山などの自然界にあるような土がいい土なので、それに近づけることです。そうした土は鉄や銅、亜鉛などの微量要素を含んでいて、これがまた植物の生育には欠かせないものなんです。うちのハウスの土は、もとは田んぼの土ですよ。最初は固かった土を有機物をどんどん入れて、いまあるような軽い土に変えました。うちの土に、試しに棒をさしてみましょうか。ほら、らくに1mはスーと入りますよね。有機物をたっぷり含んでいるから、それだけ、土が軽くて柔らかい。こうなれば、しめたものです。根の生長を阻害するものはいっさいないわけですから。

--具体的には、いまある土を、どうすればいい土につくり変えられるのでしょうか。
今、申し上げたような自然界でできた有機物をたくさん、土にあげることです。たとえば落ち葉などでできた腐葉土などは、その代表ですね。こうした腐葉土を土にかけ、土にかきまぜてあげるだけで、ずいぶん、土壌が変わります。

--ところが、ふつうは土づくりというと、どうも無機物に頼りがちですよね。化学肥料に代表される無機物は、やはり土をダメにしますか。
ええ、はっきりいってダメにします。土を汚すだけでなく、再生不可能にします。化学肥料が問題なのは、じつは肥料の粒をひとつひとつコーティングしているノリなんです。このノリは土中で分解せず、そのまま土中に残り続ける。このノリの層ができあがると、もう微生物は土中に棲めなくなり、植物はあきらかに生育不良になる。この点、無機質のものは、便利で速効性があるかのようにいわれますが、絶対、使ってはいけません。土をダメにする元凶ですから。

--今、話に出ていた微生物というのは、バクテリアですか。
そうです、バクテリアなどですね。微生物の種類は、何億あるといわれていますから、ひとつだけに限りません。この微生物が繁殖できるような土こそ、いい土なんです。

「入れる有機物は植物性のものを多くする」

--河浦花園で有機物としては、ほかにどんなものを使っているのですか。
そうですね。木炭、それからカニ殻、ピートモス、魚のカスなどですね。うちのハウスの土には、これらが、たっぷり入っています。なぜ木炭がいいかというと、微生物の棲みかにもなるということと酸素をそこに蓄えてくれるということの二つです。どんな土でも、これらを3か月たっぷり使い続ければ、土壌は確実に変わります。これで長持ちする、いい花ができますよ。うちは観光農園として切り花を販売していますが、うちの花の場合、らくに1か月はもつものばかりです。

--有機物には、植物性のものと動物性のものとがありますが。
その通りです。この植物性と動物性のバランスも、じつは大事なんです。植物性というのは、前にあげた腐葉土や油カス、草木灰など、動物性というのは、牛糞、鶏糞、魚のカスのことですね。植物をつくるわけですから、植物性を多めにして、植物性7、動物性3ていどの割合にするのが理想です。動物性は、吸収が早いのですが、すぐ効果がなくなる欠点があります。それに対して植物性は、急激に効きはしませんが、ジワジワ効いてきます。自然界のものが土の肥料としていいのは、こうした効き目がゆるやかで、長く続くことなんです。

--河浦さんが栽培農家になられた当時は、当然、化学肥料はなかったわけですよね。
たしか、日本に化学肥料が入ってきたのは、昭和32年頃ですよ。私は昭和15年、土肥の生まれなんです。家は代々貿易商の家系で、祖父ははじめて日本にトーキー映画を輸入したというハイカラなひとでした。父の趣味が洋ランづくりで、そんな父の影響を受けて、私は16歳でこの世界に入ります。私が弟子入りしたのは、当時、多摩川べりに栽培農家が40軒ほど集まってつくった温室村の植松さんのところでした。温室村でよく使っていたのは、東北などでご飯を炊くときに出るワラ灰や、牛や馬を飼っていて出る牛糞・馬糞などですね。これらを貨車で東京に大量に運んできて、使っていました。そんななかで育ちましたから、植物には有機物がいちばんいいという信念が、今も変わらずにあります。

「腐葉土は買うより自宅でつくるといい」

--よくいい土は弱酸性で、理想はペーハー6.5といわれたりもしますが、こうした酸性、アルカリ性ということには、神経質にならなくていいのでしょうか。
それは、見学に来られる方々から、よく聞かれる質問のひとつです。学者は一般にペーハー6.5の弱酸性が理想といいますよね。しかし、私はちがうんです。ペーハー5.5から5.8ていど、かなり酸性に近いほうがいいと考えています。スギナが生える土壌は酸性でよくないといわれますが、うちのハウスを見てください。スギナが生えています。スギナが生えるというのは、土が健康な証拠なんです。問題は弱酸性かどうかというより、土壌の内容物なのではないでしょうか。

--草花に向く土というものはあるのでしょうか。
草花は非常に繊細な植物です。これらは種子から育てるわけですから、チューリップ、ユリなどの球根類とちがって、そうとう神経を使わないといけない。やはり、栽培の基本は、なんといってもいい土をつくることですよ。そのためには、前にいったように、徹底的に土に有機物をあげる。植物性では、腐葉土やピートモスですね。腐葉土は、東北の農家などで落ち葉を集めてひと冬積み上げてつくっている。あれは、ホンモノです。また動物性ではカニ殻もいい。うちでは金沢より、特注で、コンテナで取り寄せています。ほかには、沖縄の珊瑚を精製したものを大量に取り寄せて、使っています。これはカルシウムそのものです。ただこれはうちの特注で、一般には出回っていません。海草もいいですよ。ミネラルそのものですから。

--バラでは木搾液がいいともいわれていますが、効果はあるものですか。
たしかに殺菌効果はあります。バラはたいへん神経質な植物なので、この場合、濃度が非常に難しい。夏は800倍から1000倍、冬なら300倍から500倍薄めて使うのがいいでしょう。うちはバラをつくってはいませんが、木搾液を使うのは、病気予防のためです。この場合は、20倍、30倍薄めていっせいにまきます。

--家庭で出た生ゴミを庭に埋めて、堆肥をつくるといいともいわれますが。
それはいいですね。ただし、生ゴミのままでなく、一度、かならず腐らせたほうがいい。したがって生ゴミは庭に直接下ろすのでなく、木箱のような囲いのなかで発酵させてから、使うことをすすめます。上からどんどん水をかけて生ゴミを発酵させる。このとき出る上水はたいへん栄養分を含んでいて、非常に効果がありますよ。

--最近は園芸ショップに行くと、草花専用の培養土などが売られています。これはおすすめなのでしょうか。
あまり、感心しません。何を使われているか、わかりませんからね。むしろ、自家製のものにこだわったほうがいい。たとえばカニ殻。食べたあとのカニの甲羅や脚を砕いて、それを土にまぜたほうがずうっといいですよ。カニのキトサンは、微生物のエサになり、微生物を繁殖させる効果があります。また、タマゴの殻も捨てずに使いたい。こう見てくると、身近なもので使えるものはたくさんあります。

「健康な草花は、葉が若葉色で姿が美しい」

--プロは植物の何を見て、健康かどうかを判断するのでしょうか。
われわれの場合は、茎の状態、葉の色、葉の艶でまず判断しますね。健康な植物の場合、茎はどんな状態か。茎はぐんぐん上をめざして伸びていきます。ところが不健康な植物の場合、茎は横になるか、地を這うようになります。人間では、元気なひとは胸をはって歩きますが、元気でないひとの場合は猫背になるでしょう。それとまったく同じです。

--葉の色の場合は、どうなのでしょう。
これはぜひ覚えてほしいのですが、春の野山は若葉色といいますよね。この若葉色、薄い緑色こそ、健康であるかどうかを示す葉のバロメーターなんです。うちの草花を見て、「先生、ちょっと葉の緑が薄いようですが、肥料不足ではないですか」という見学者もいますが、これは完全な間違いで、化学肥料ばかり使っているとチッソのみ過多になって、葉の色は濃くなる。これは不健康な証拠ということを、彼らは知らないわけです。不健康ですから、体力がない。体力がないから、病気になる。病気になるから、化学肥料を使う。この悪循環に陥っている花の農家さんは、意外に多いと思いますよ。また、葉の色が黒くなってきたら、根が悪くなってきた証拠です。このことも知っておいてください。

--有機物をたっぷりすきこんだ健康な土壌だと、病害虫もシャットアウトするのでしょうか。
それはいえます。不健康な土壌で育った植物は、アブラムシを呼ぶような匂いを出すみたいですね。健康な土壌だと、アブラムシは寄ってきません。うちではアブラムシはいっさい見たことがない。またウドンコ病なども見事なくらい、発生しません。その理由のひとつに、茎が非常に毛ばたっていて、有毛だということがあげられます。ある研究家が虫メガネをあてて調べた結果、うちの草花の茎は有毛で、顕著な特徴があると報告してくれています。このため、たぶん、菌や虫はつかないのだろうと思っています。

「いい花をつくりたいなら、土づくりから」

--草花には、一、二年草、宿根草と種類がありますが、育てる草花で土は変えるべきなのでしょうか。
よく、そういう質問をうけます。しかし、私は植物で土を変えることはない、植物は全部いっしょだと思っています。うちでは年間十種類の草花をつくってきていますが、みんな土は同じです。しかも、うちの土は一週間として空いたことがありません。連作しても、うちの土はびくともしない。それだけつねに余力があり、栄養のバランスがとれている土なんです。有機物の場合、入れすぎはありません。化学肥料の場合は、問題ですが、有機物では、心配しなくていい。


--それだけの土だから、ほかに負けないいい花をつくりだすわけですね。
その通りです。今つくっているものは、コスモス、デルフィニウム、ラークスパー、ヒマワリ、トルコキキョウなどですが、うちの花はどれも花弁が散らず、長くもつことで高い評価をいただいています。いい土をつくりあげると、花はそれにきちんと応えてくれます。それが私の最高の喜びですね。だから、今は毎日が楽しいですよ。

--これまでお話を聞いてきて、土はいきものだということがよくわかりました。そうしますと、土に寿命はないということでしょうか。
ええ、そうです。化学肥料を使わないかぎり、土は永遠です。土は貴重ですから、ぜひ化学肥料などで破壊しないように、大事に使いたい。ですから、私はすこしでもいい土をつくろうと、今でも力を惜しみません。土づくりは、目先のことだけでなく、十年、二十年先を考えてつくることが大事なんですよ。わたしは、いい花をつくりたかったら、まず、いい土をつくることからはじめなさい、と皆さんにいいたいですね。

----インタビューが終わったあと、ハウスのなかにいれてもらいました。ハウスのなかの空気はさわやかで、酸素100%といった感じです。しかもラークスパーの茎はまっすぐ伸び、節間もそろっています。お話の通り、葉の色は鮮やかな若葉色でした。これら見事な草花を目のあたりに見ると、「日本一の土づくり名人は、日本一の花づくり名人だ」ということがしみじみわかりました。






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